結婚式に行きました4

 乾杯のあと、会場はやや暗くなり、後方のスクリーンでスライドショーが始まりました。J-POPの名曲たちと共に、まずは新郎新婦それぞれの幼少期から現在までを振り返り、二人の出会い、お付き合いに至る経緯、デートや旅行などのキラキラとした思い出、両親に婚約の報告をする場面など、私の知らない表情をしたYと、旦那さんが次々と大画面で映し出されていきます。二人の当時の心情が、文字で添えられる演出により、会場からは、その都度リアクションが起こります。

 その時、私の脳内では、Yのポジションを自分に置き換えた想像が繰り広げられていました。まず、自分のツラがどんどん映し出されるスライドショーに、感動系のJ-POPは全く合いません。むしろポンチャックディスコがぴったりです。J-POPから選ぶとすれば、YMOのCosmic Surfinでしょうか。三枚目にもなりきれず、ほんのりお洒落さを出そうとする根性に、会場の人たちはきっとイラっとするはずです。


李博士(イ・パクサ)のポンチャックディスコ - YouTube


YMO - Cosmic Surfin(Live in LA 1980) 高音質版! - YouTube

曲はいいとして、問題なのは小学校入学から中学、高校時代の写真が残っていないことです。かつて多感な時期に、黒歴史になる前に全て抹消せねばと大量に捨ててしまったことがありました。かといって、学級写真の私をスクリーンサイズまで引き延ばすのは画素数的に無理がありますし、卒業アルバムの、競技大会でボール投げをしている極めてブスな瞬間の写真(これを選んだアルバム委員の悪意を感じます。)を使用するのも避けたいです。高校の卒業式の写真は、着ぐるみで出席したため、もはや誰なのか分かりません。しかし乳児から幼児、幼児から20代半ば、という流れはあまりにも不自然すぎます。無理やり繋いだところで、20代の写真も、親しい友人たちに送るために自撮りした、白目の写真ばかりです。それに、もし私がデートに行ったとして、撮るものといえばきっと、変な看板や、道に落ちている物や、デートの相手を盗撮した写真くらいでしょう。以前友人と三人で旅行した際の写真も、大半が友人の楽しむ姿で占められています。ホテルの部屋で、だらだらとクイズ番組を見ながら、各々テレビに向かって回答する様子の動画も撮りました。これもまた良い思い出なのですが、どうしてでしょう、カップルがディズニーランドでピースしたり、台湾旅行で楽しそうに小籠包を食べる様子とは明らかに何か、熱量のようなものが違います。

 スライドショーは順調に進み、ウルフルズのバンザイが流れた時のことです。向かいの席に座る同級生が、歌詞に感動したらしく、彼女は周りの同級生に言いました。

「めっちゃいい曲…なんかこれ聴いてたら◯◯(おそらく彼氏)に会いたくなってきちゃった…。」

そこから私とMを除いての恋バナが始まりました。聞く気は無くとも同じテーブルなので、勝手に耳に入ってきます。十数年ぶりに聞いたわ、という名前がたくさん飛び交い、誰が結婚したとか、誰と誰が付き合ってるとか、地元の同級生たちの話をしていました。中学時代の記憶を闇に葬り、今ではYとMとしか交流を持たない私とは違い、今も多くの繋がりがある、昔も今もリア充の彼女たちに更なる壁を感じました。そんな塩辛い会話を調味料にして、ただ黙々と飲食に耽るしかありませんでした。Mは瓶ビールをゴクゴクと飲んでいました。

 

 その後Mと化粧室に行き、ぞんざいに連れションをしました。スッキリしたのは良いものの、鏡に映る姿を見て驚愕、そして落胆しました。そこに映っていたのは、醜い妖怪ハナクソ女でした。先程の式で涙を我慢し流れたチグリスとユーフラテスの名残が、大量のハナクソと化していました。よく言えば遺跡、悪く言えばハナクソです。私は今までずっと、このクソたちを二つの穴にパンパンに詰めたまま、人々と会話をしていたのかと思うと恥ずかしく、やるせない気持ちでいっぱいになりました。妖怪ハナクソ女に祝われる新婚は一体どんな気分でしょうか。全くひどいものです。

 気を取り直して会場に戻ると、ケーキ入刀や、同僚による余興などが行われました。その度に流れる音楽に合わせ、おそらく新郎側の親戚でしょうか、一人の幼女が全力で踊っていました。あまりにも全力で、何度もパンツが丸見えになっていたので、私はMに、

児ポ児ポ!」

と伝えると、Mは少しだけ嫌な顔をして、

「そういうとこだよ。」

と諭すように言いました。

 新郎新婦のお色直しのため、一旦会場を出る際に、付き添いのお手伝いとしてYの大学の同級生の名前が呼ばれました。司会の女性のアナウンスによると、度々Yから恋愛相談を受けていたとのことで、それを聞いた私とMは顔を見合わせて、

「うちら恋愛相談なんて受けたことないね…。」

「そっか…。そりゃそうだよね、相談したとこでね…。」

と、なんだかよく分からない寂しさを共有しました。

 お色直しを終え、綺麗なブルーの衣装に身を包んだ新郎新婦は、ご両親へ贈り物を渡し、Yが手紙を読みました。この時、どういう訳か私は完全に、Yのお父様に感情移入しており、Yが読み上げる一言一言に対して、そうだね、ありがとう、パパもだよ、と心の中でつぶやいていました。そして嬉しさと、寂しさと、虚しさ。映画やドラマも、ついつい主人公より、親に自分の気持ちを重ねて観てしまうので、私は若々しい女であることを放棄しているのかもしれないと思いました。素敵なお手紙をもらえて、パパうれしかったよ。

 エンディングムービーが流れる中、向かいに座る同級生が、他の同級生に、

「あんたたちよくそんなに食べれるね。」

と言っていたのを耳にし、自分が言われている訳ではないのは分かっていましたが、少し心が痛んだので、持っていたフォークを置き、もうほとんど食べてしまったデザートを、申し訳程度に二口ほど残しました。

 

 気まずかった同級生たちと別れ、二次会会場経由、札幌駅行きの小型バスに乗り、途中でほとんどの乗客が降りたので、私とMも降り、先に降りた集団を追うと、彼らは全く別のビルに入って行ったので、なんでだよ!なんなんだよ!どこだよここ!と二人で軽くキレました。会場までの道を調べるとやや遠く、普段スニーカーしか履かない我々がヒールで歩くにはつらい距離でした。足が痛いと連呼しながら、居酒屋やカラオケの勧誘をかわし、珍妙な歩き方の若い女二人が夜のすすきのの街を練り歩きました。

 なんとか会場に到着しましたが、そこはかなりパーリー感が強めで、壁一面が大きなコロナ瓶と海の写真になっていました。四人掛けの席にMと二人で座りましたが、会場はほぼ満席の中、私達と相席を試みる者は誰一人おらず、周りの目を気にすることもなく二人でたくさんの酒を飲みました。テーブルにはクラッカーが4つ置いてあったので、新郎新婦が登場したタイミングで、全部鳴らしたのですが、中から出てきたカラフルなフサフサは全て前方の男性の頭に乗っかってしまい、キョロキョロと辺りを見渡す男性を横目に、私は内心ヤベ〜!と思いながらも、すました顔で知らんぷりを決め込むしかありませんでした。

 シャンパンタワーや、クイズなどの催しが行われ、(Mはクイズに正解し、旅行券をもらっていました。)ひと段落したところで、新郎新婦の元へ行きました。

「この空間で私が一番クズで底辺だけどお祝いできて良かった。」

と、無意識のうちに、口から出てしまい、

「そういうとこだよ。」

と、Mに釘を刺されました。本当にそういうところです。それから一緒に写真を撮るために並んだのですが、ナチュラルに新郎と新婦の間に割り入ってしまい、おかしなことになってしまいました。そういうところです。それでもYは笑ってくれるのです。人望が厚く、多くの人に祝福される主役でありながらも、家族への感謝の気持ちや、ゲストへの心配りを大切にする、素晴らしい人間なのです。Yの欠点を挙げるとすれば、欠点がないところです。自分の器の小ささについて考えているうちに二次会は終了し、Mはパンプスを脱ぎ、駅までの道を裸足で歩き始めました。やはり世界を股に掛ける女はスケールが違います。自分のスケールの小ささについて考えているうちに駅に着きました。地下鉄とタクシーに乗り、地獄のミサワ先生のスタンプを多用するくらいしか使い道のないLINEを交換し、Mと別れました。

 

 結婚式に参加して感じたことは、Yの素晴らしさ、自分に披露宴は出来ないということ、婚姻とは一体何、以上の三点です。

 

 実家のデジカメを借りたのですが、東京に戻ってからデータを確認したところ、まともに撮れている新郎新婦の写真が一枚も無かった上に、勝手にダサい日付が入る設定になっていました。

 写真はテーブルに落ちていた花をパンに刺して遊んでいた様子です。

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