結婚式に行きました3

 式が終わり、外の階段で写真撮影が始まりました。司会の女性スタッフのアナウンスにより、新郎新婦とご両家、新郎新婦と同僚、新郎新婦と同期、と次々入れ替わりで集合しては、何パターンもカメラマンが撮影していく中、Yのお兄さんもカメラマンの隣で、それはそれは楽しそうに一眼レフで撮影をしていました。私も一眼レフを持ってこようかギリギリまで迷っていたのですが、持ってこなくて良かった〜マジ場違いだった〜調子乗ってると思われるところだった〜カメラ女子で〜すアーティスティックなんで〜すみたいに思われるところだった〜ウオ〜あぶね〜結婚式に一眼レフを持ってきていいのは新郎新婦の二等親以内だわ〜と思いました。職場の同期でもある二人の結婚式なので、参列者のほとんどが職場の上司や同期で占められており、私は少しいたたまれない気持ちになりました。そしてなぜか、前に居酒屋で注文したお酒の中に、プラスチックの破片が混入していたことを思い出しました。

 次は、新婦のご友人お願いします、と声が掛かり、職場の同僚に比べ少ない人数が階段に集まる中、可能な限り気配を消しながら中学の同級生たちの後列に並び、こわばった笑顔で撮影を終えました。知り合いである以上、何か声を掛けたり、挨拶をしなくてはいけないけれど、どのタイミングで、何と言うべきかと頭を悩ませているうちに、ブーケトスへと移行しました。司会者によって、女性は全員徴集され、お願いだからこっちには投げないで、目立つし、拍手とかされるし、前に出て「嬉しいです」とか、「びっくりしました」とか言わなきゃいけないし、「あの暗いくせに膨張色着てるやや肥満、どんだけがっついてんだよ、見苦しい」と思われてしまう、否、皆さんに思わせてしまう、と誰も私のことなど視界に入ってすらいないにも関わらず、自意識過剰な思考が駆け巡りました。結果、ブーケは素敵なお嬢さんの元にとんで行ったのです。ブーケも喜んでいるに違いありません。良かったですね。

 それから小型のバスで、披露宴会場であるレストランに移動し、玄関に設けられた受付で会費を払いました。受付の机に、立派なご祝儀袋が並んでいるのを目にして、私は朝、飛行機の中で書いた手紙を取り出しました。忙しいYに直接手紙を渡すタイミングなどなく、ここで預かってもらうしか他に方法がなかったのです。

「お手紙を渡して頂けますか。」

とお願いすると、きらびやかなご祝儀袋とは比べ物にならないほどの貧乏くさいクラフト紙の封筒と、控えめに貼ったつもりが激しく主張しているパンダのシールに、受付の女性は少々困惑気味でしたが、私が決してふざけているわけではなく、いたって真剣であることが伝わったのか、預かってもらえることになりました。新郎新婦のプロフィール(お互いのことを何と呼び合っているか、など)と、座席表、料理の説明が載っている案内を受け取り、披露宴会場に入ると、ドアの前に新郎新婦が立っており、二人が出席者を出迎え、一人ずつ挨拶を交わしてから席に着くようなスタイルだったので、何か良いことを言うぞと私はやや気合が入っていました。フラ〜と二人の元に寄ると、ホスピタリティ溢れるYが先に声を掛けてくれました。

「新居はどう?」

Yは、式や披露宴に来た人たち全員に気を配り、そして感謝の気持ちを伝えたいと思うような本当に立派な人間なのです。

「ゴキブリ3回出たけどいい家だよ!」

かたや私はというと、この素晴らしい日に、初対面の旦那さんもいるというのに、たった一言でムードを台無しにしてしまうような人間なのです。それもわざとではなく、悪気なく考えなしにやらかしてしまう、一番厄介でタチの悪いタイプなのです。

「そういうとこだよ。」

とMに叱られてしまいました。私も咄嗟に答えてしまったとはいえ、反省しました。しかし嫌な顔一つせず笑ってくれる、Yは仏のような人間です。

 さて、Mと私は着席して気が付きました。まあそうだろうとは思っていましたが、やはり中学の同級生らと同じテーブルでした。しかも一人はすでに人妻で、苗字が変わっていました。とりあえず、しらじらしく挨拶をして、

「ウワ〜ヒサシブリ〜ゲンキ〜?」

と言ってはみたものの、

「元気だよ〜」

「ヘエ〜ソッカ〜」

「元気〜?」

「ウンゲンキダヨ〜」

「…」

「…」

そしてごく自然に、Mと私、そして他3人のふたつのグループに分かれ、まるで何もなかったかのようにそれぞれ歓談するのでした。

  いよいよ披露宴が始まり、遠くに新郎新婦が座っています。私は、今日ぐらいしか、この単語を発する機会はないと思い、

「たかさご!見てたかさご!すごい!たかさごに座ってる!たかさご遠い!たかさご!」

と Mに向かって連呼しました。

Mはというと、自分のグラスのシャンパンが、他の人より異常に少ないことをずっと気にしていました。

 

つづく