引越しについて2

 道民が寒さに強いのは誤解で、寒冷地域ほど建物は断熱仕様、街は地下歩道、暖房は強力なため、関東のじわじわ蝕まれるような寒さにベソをかきながら、容赦なく降り注ぐ朝の光と共に新生活二日目を迎えました。(最終的にカーテンが全て設置されるのはその年の師走のことです。)

 引越しの翌日といえば、役所や警察署などで面倒な手続きをさっさと済ませて、ゆっくり蕎麦でも楽しみたいものです。しかし、太陽の光で部屋が照らされ、次々と発見される気になる箇所。床の汚れ、壁の画鋲穴、浴槽の栓に付着した黒いカス、トイレの内側の古い汚れ、ウォシュレットのノズルの頑固な汚れ、そして部屋に散らばる謎のちぢれ毛。私は特別神経質でも几帳面でもありませんが、その部屋の様子を見ているだけで全身がむずがゆくなりました。台所の排水溝の構造が分からないので、ゴムの蓋を取り、中から筒を取り出してみました。その瞬間、勢い良く鳴らされるクラッカーから伸びるカラフルなフサフサのごとく、大量のコバエが飛び出しました。初めての一人暮らし、心浮き立つ新生活、コバエ爆弾。Welcome to the kobae house. その瞬間、私の目は闘う人間の目に変わりました。手続き関係を全て後回しにして、すぐさまドラックストアへ走り、洗剤一式を買い揃え、その日は手がガサガサに荒れるまで掃除三昧なのでありました。その後、ネットで注文していた家電や寝具が少しずつ届き、ベッドや棚を買いに行き、引越しが完了したのです。

 

 それから4年弱が経ち、二度目の引越しを考え始め、ネットで物件を検索していたところ、駅から徒歩8分、築7年、鉄筋コンクリート、バストイレ別、二階以上、室内洗濯機置場、敷地内ゴミ捨て場あり、南向き角部屋で家賃37800円という意味の分からない部屋が掲載されていて、意味が分からなすぎてとにかく理由を知りたいという衝動だけで、気付けば不動産屋に来店予約をしていました。

 その不動産屋は、以前行った不動産屋とは違って、街中のビルの中にあり、スーツに身を包んだ若い従業員の人たち、店内に流れるアップテンポなJ-POP、眩しく光る蛍光灯、とフレッシュさを前面に押し出した空間でした。担当してくれたSさん(私よりやや年上くらいの女性)に、早速気になる物件について話を聞くと、

「大家さんに確認したところ、あまりお勧め出来ないとのことで…特に若い女性は…」

と言われ、大家さんが勧めない部屋ってあるんですね、と思いました。殺人現場か?幽霊か?と想像をめぐらせ詳細を聞いて判明した理由というのは

・名前を書けば入居できるほど審査がゆるい

・故に外国人、生活保護受給者、精神病患者などが住んでおり、トラブルが絶えない

・特に、この部屋の隣に住む男性は一日中叫んだり、壁を叩いたりしてきて、それを承知で入居した男性も、部屋の外で顔を合わせた際に言いがかりをつけられ、口論になり、半年で退去した

ということでした。殺人だの幽霊だのドラマの見過ぎかよという発想しかなかったので、ヘビーな事実にうろたえるあまり、声を出して笑ってしまいました。

 

 

つづく