引越しについて

 3ヶ月前に引越しをして、多摩での生活にも慣れました。いい街です。前に住んでいた小田急相模原駅付近には、常に悪い意味でユニークな方たちが徘徊されていたので、それに比べれば多摩市はLOVE&PEACEです。

 一人暮らしを始めて、今年で5年目になるのですが、未だにポピュラーな引越しを知りません。特に物件探し、内見に関しては、やや変わったパターンしか経験ありません。

 最初の引越しは、実家のWindowsXPで見つけた物件の内見に行くところから始まりました。電話で予約した不動産屋は、おじさまとおばさまが営む、地域に根ざしたタイプの小規模なお店でした。特にお願いしたわけではないのですが、いくつか別の物件も提案してくれたので、それらを回ることにしました。車に乗って案内されるのだろうなと生ぬるいことを考えていると、おばさまが、おもむろに店の奥から自転車を引きずり出してきました。溢れそうな戸惑いを抑え、おばさまの運転するやたら速い自転車の後ろを、必死に自転車で追うのでした。いくつか部屋を見て回ったものの、どれも全くピンと来ず、最後に、ネットで見た目当ての物件に向かったのですが、その部屋は、まだ退去前だったので、住人のおじさんも立ち合いのもと、内見しました。おじさんは「どこでも見ていいからね!」「ちゃんと細かいところも見てね!」「冷蔵庫あげようか?」と親切かつフレンドリーにもてなしてくれました。私は圧にやられそうになりながら、そもそも内見の経験がなかったため、見るべきポイントも分からず、オロオロするばかりでした。とはいえ、おじさんが住む部屋は壁紙が一部、真っ青な空と雲の柄になっていたり、天井がブラックライトで光る仕様だったり、家具や家電がみっちりで、おじさんの個性が強すぎて、自分の胸高鳴る新生活が全く想像できませんでした。壁紙は張り替えてもらえる、ということを確認し、屋上に行き、美しい夕方の街並みを眺めていると、ついさっきま抱えていたモヤっとした気持ちと、おじさんの怪しい部屋の記憶が頭からごっそり消え、いつの間にか、春からここに住むんだ!と思っていたのです。

 札幌の実家から神奈川県まで荷物を運ぶなら、いっそ家具も家電も新しいものを揃えたほうが安いかも、と思い、荷物は3泊用のスーツケースに詰めて、飛行機で運びました。管理会社で鍵を受け取り、家まで車で送ってもらいました。もともと一人っ子で、小さい頃から両親共働きだったため、寂しさに対する不安は特にありませんでしたが、よくよく考えると、角部屋で大きな窓が二つあるこの部屋には、カーテンがありません。そして、ネットで注文した布団一式も、照明もまだ届きません。とりあえず、台所の小さな灯りをつけ、スーツケースから寝袋を取り出し、穴の空いた高校ジャージに着替え、寝床に着いたのです。しかし、4月初旬、カーテンのない窓からの外気、鉄筋コンクリート故、底冷えするフローリング、夏用のペラペラな寝袋、そして通気性抜群のジャージ、たくさんの奇跡が重なり、その日は一睡も出来ないのでした。寒さに凍えながら、この状況、電波少年みたいだなと思いました。



つづく


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